政治や政策形成は、一般の方々にわかりづらいし、外からは見えにくい。そこで、筆者は、大学の授業などで、政治や政策に関わる映画やドラマなどを教材によく使用した(注1)。映画やドラマは、飽くまでフィクションではあるが、政治や政策などについての理解を深めてくれる役割を担っている。
その意味で、特に韓流系の映画やドラマは、社会的な背景もあり、ダイナミックで劇的であり、かなりリアルでもあり、エンタメとしても楽しめると共に、政治や政策などにおける多くの視座や知見を視聴者に与えてくれる。筆者は、実際の政治や政策形成等にも関わってきたが、その経験からも、そのことをリアルにかなり近いと強く感じることがある。そこで、本記事では、2つの韓流ドドラマを取り上げて、政治や政権運営、政策形成などについて考えていくこととする。
現代社会の閉塞感や危機的状況を打破するために必要なのは、一人のカリスマか、それとも精緻な組織か。韓国の政治ドラマの傑作『サバイバー: 60日間の大統領』と『旋風』(注2)は、異なるアプローチでその答えを描き出しています。両作に共通するのは、政治の要諦が「個人の強烈な意志」と「それを支えるチーム」の共創にあるという真実です。
作品紹介:対極のリーダーが挑む国家の危機
まず、その2つの作品の内容について簡単に説明しておく。
- 『サバイバー: 60日間の大統領』 国会議事堂の爆破テロで閣僚が全滅。政治経験ゼロの環境相パク・ムジンが、憲法に基づき60日間の大統領代行に任命される。誠実さだけを武器に、未曾有の国難に挑む理系リーダーの成長譚。2019年作品
- 『旋風』 腐敗した巨大権力を根絶するため、現職大統領の暗殺という禁忌を犯す国務総理パク・ドンホ。自らが「怪物」となってでも社会を浄化しようとする、冷徹な策略家による命懸けのポリティカル・スリラー。2024年作品。
次に、3つの視点から両作品について検討し、政治や政策形成・政権運営等について理解を深めていきましょう。
1.「誠実」か「破壊」か:個人の意志が既存の枠組みを揺さぶる
両作品の主人公は対照的ですが、どちらも停滞した政治に風穴を開けるのは「個人の資質」であることを示しています。
- 信頼を築く「誠実さ」(『サバイバー』) 野心なき学者出身で大臣で、偶然に大統領権限代行になるパク・ムジンは、嘘や駆け引きを排し、データと理論で誠実に決断を下します。その純粋さが、既得権益にまみれた政治の世界で「新しいリーダー像」として周囲を動かす原動力となります。
- 退路を断つ「突破力」(『旋風』) 首相であり、大統領権限代行になるパク・ドンホは、腐敗の連鎖を断ち切るために自らが「悪」となる覚悟を持ち、極端な手段をも厭いません。巨大な権力構造を打破するには、すべてを捨てるほどの強烈な個人の突破力が必要であることを物語っています。

2. 「理想」を「現実」に変える、最強のチームビルディング
リーダーの掲げるビジョンは、それを「翻訳」し実装するチームがあって初めて社会に浸透します。
- ビジョンを戦略に落とし込むブレーン(『サバイバー』) 当初は「いい人」すぎるムジンを危ぶんでいた若き秘書官チャ・ヨンジンは、彼の誠実さに惹かれ、その理想を「勝てる戦略」へと昇華させる強力な参謀へと変貌します。
- 孤独な決断を支える信頼の絆(『旋風』) ドンホの無謀な計画を最期まで支え抜く秘書官ソ・ジョンヨンの存在は、過激な変革を断行するリーダーには、孤独な決断を共有できる強固な信頼関係に基づいたチームが不可欠であることを示しています。

3. 「正義」の衝突を超えて:政治が目指すべき最終目的地
物語は、正解のない「大義」のぶつかり合いを浮き彫りにします。
- 「正義とは何か」という問い(『旋風』) 「悪を討つための悪」を辞さないドンホと、秩序の維持を掲げる政敵チョン・スジン 。互いの信念が激突する中、いかに自分の大義を社会に納得させるかという、終わりのない闘争が政治の本質であることを描いています。
- 危機管理と国家の安定(『サバイバー』) テロ後の混乱の中で、バラバラだった組織がリーダーの姿勢に感化され、一つのチームとして機能し始める過程は、政治の究極の目的が「社会の安定と存続」にあることを再認識させます。

結論:日本への示唆 — 「北極星」と「地図」の共創
両作品から学べる教訓は、日本の閉塞感を打破するヒントに満ちています。変革のブレークスルーは、「既存のOSをアップデートしようとする個人の強烈な意志」と、「その意志を精緻な実務で支えるチーム」が交差する瞬間に起こります(注3)。
『サバイバー』の「信頼による結集」と、『旋風』の「信念による突破」。この両輪こそが、かつての小泉政権(注4)やサッチャー政権(注5)が示した「北極星を示す個人(リーダー)」と「地図を書くチーム(ブレーン)」の関係を象徴しています。私たちが待つべきは一人の救世主ではなく、強いリーダーシップを支え、かつ実務を完遂する「最強のチーム」の構築なのです。
(注1)筆者が最近刊行し始めた政治・政策イコールZINE「ワ(輪・和)コール」創
刊号では、特集として「映画やドラマを起点に考える政治・政策」を取り上げた。その詳細を知りたければ、こちらを参照のこと。
(注2)これらのドラマの詳細については、次の情報などを参照のこと。
・「『サバイバー:60日間の大統領』キャスト・あらすじ・ネタバレ感想!チ・ジニ主演!息もつかせぬ政治ドラマ!」mirtomo(ミルトモ)、2024年1月6日
・「「戒厳令事件」から混乱が続く韓国とドラマが示す未来」(寺脇研さんのドラマ時評)寺脇研、通販生活、2025年3月31日
・「韓国ドラマ『旋風』最終回まで全話ネタバレ・ラスト考察!キャスト相関図,あらすじや伏線解説」CineMag、2024年7月1日
・「韓国政界の裏切りと復讐、息もつかせぬ政治サスペンス」(寺脇研さんのドラマ時評)寺脇研、通販生活、2024年11月29日
・「Netflix韓国ドラマ『旋風』(全12話)あらすじ・解説/ ソル・ギョングとキム・ヒエが絶体絶命の中、生き残りをかけてぶつかり合う骨太の政治スリラー」デイリー・シネマ、2024年7月13日
(注3)(注4)(注5)これらについては、次の拙記事をご参照ください。
・「「一人の救世主」を待つのをやめよう:日本の閉塞感を打破する「個人の意志×チームの知性」というエンジン」鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2026年1月2日

