2025年11月22日 午前7時30分
【論説】「国民政党」の看板を掲げる自民党が結党70年を迎えた。2度の下野を除いて長期政権を担い、政治の安定をもたらした。だが、現在は衆参両院で少数与党に転落するという最大の危機に直面する。
1955年11月15日、日本民主党と自由党の「保守合同」によって誕生した。当時は東西冷戦下で、自民は自由主義である西側陣営のとりでと位置付けられた。長期政権の間、高度成長によって生まれた富を再分配することで権力を維持してきた。
一方、70年間、常に付きまとったのが、政治とカネを巡る問題。ロッキード、リクルート、東京佐川急便といった疑獄の数々。政官財のもたれ合いの構造が温床となった。
冷戦終結やバブル経済の崩壊によって社会情勢は一変。「失われた30年」と呼ばれる低迷の時代が続く。少子高齢化と人口減少の加速にあえぎ、格差の拡大や地方の疲弊は憂慮すべき状況だ。国家の停滞を招いたのは、既得権益のしがらみから脱却できず、政策も、政治手法も時代に適応できなかったからではないか。
2023年に発覚した旧安倍派の巨額裏金事件で、信頼は失墜、24年衆院選、今年の参院選に惨敗する。「解党的出直し」や「真の国民政党に生まれ変わる」と訴えなければならない状況に追い込まれた。
共同通信社の世論調査で、高市内閣の支持率は69・9%を記録した。だが、自民の党支持率は30・0%にとどまる。40%前後だった第2次安倍政権時の党勢に及ばない。
7月の参院選では現役世代の不満を受け止められず大敗した。「手取りを増やす」などと特定のテーマを前面に出した中小政党に票を奪われた。
結党時に打ち出した「国民政党」である意味を真摯(しんし)に問い直さなければ、歴史的な使命は終焉(しゅうえん)しかねない。高市首相は「強い経済」「力強い外交・安保」を目標に据える。だが、私たちの将来の暮らしや、地方の未来など、描く社会像は判然としない。
自民は党が目指す新たなビジョンを26年3月にまとめる予定だ。未来を安心して託せるか。その答えを提示しなければ信頼回復は見込めない。裏金問題の実態解明や政治改革についてもおろそかにすれば、失速は避けられない。「国民政党」として多様な国民の意見をくみ取ることができなければ再生は遠のくだろう。
求められているのは、金権政治と決別した上で、長期的視点の国家ビジョンを示すことである。日中関係の悪化を含め緊張感を増す外交戦略、景気回復のための経済政策が問われている。持続可能な社会保障制度の将来像も提示する必要がある。

