X Mile 野呂 寛之|「ノンデスク産業」の課題をテクノロジーで解決する – 起業の「わからない」を「できる」に

※このインタビュー内容は2026年06月に行われた取材時点のものです。

日本経済を立て直す手段はスタートアップにあり

高齢化や人手不足など様々な課題を抱える物流・建設・製造などのノンデスク産業。その課題をテクノロジーで解決しようと取り組んでいるのがX Mile株式会社です。アメリカではAIの導入による大手テック企業のリストラが続々と発表されており、現場で働く「ブルーカラー」の人たちの収入が増え、一部の職種では「ホワイトカラー」との逆転現象も起きています。

同社が運営するノンデスク人材求人サイト「クロスワーク」は会員数累計100万人、契約30,000事業所を突破。同社代表の野呂さんに、起業までの道のりや複数事業を展開している理由、今後の展望などについて伺いました。

xmile 野呂氏

野呂 寛之(のろ ひろゆき)
X Mile株式会社 代表
EVスタートアップのベトナム支社にて事業立ち上げ、カンボジア拠点長を経験。帰国後、Paymeに創業2番目の社員として入社、取締役COOに就任しFinTech・SaaS事業を管掌。2019年にX Mileを創業、Forbes JAPAN「2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出。国際基督教大学卒。

ノンデスク産業が抱える課題を解決するため起業

ー改めて、X Mileの事業内容について教えてください。

野呂物流・建設・製造などのノンデスク産業に向けた経営支援を行っています。ノンデスクワーカーの人材プラットフォーム「クロスワーク」の運営をはじめ、物流事業者向けのSaaS・プラットフォームなどを展開しています。

ー野呂さんご自身のこれまでのキャリアについてもお聞かせください。東南アジアでの経験から起業に至るまで、どのような流れだったのでしょうか。

野呂:もともと海外志向が強く、高校1年生でボストンの語学学校に留学したときに、アジア各国から来ている留学生たちに刺激を受け、「何か人と違うことをやろう」という自分の価値観が形成されていきました。学生時代はインターンとして建設SaaS事業の会社で働き、次に「海外にチャレンジしている日本のベンチャー企業で働きたい」と考えて休学して、テラモーターズというEVメーカーのベトナム支社へ。電動バイクとEV3輪の立ち上げをベトナムとカンボジアの両方で行っていました。

優秀な方々が熱量を持って新しい事業を生み出し、会社が大きく発展していく様子を間近で見て、日本経済が長期間にわたって停滞している中で新しい価値を生み出していく人や会社の素晴らしさに感銘を受け、スタートアップ業界で働きたいと思ったんです。

帰国後、2017年にPaymeというフィンテックのスタートアップ企業に2番目の社員として入社しました。その後、取締役COOに抜擢され、事業・経営のすべてに関わり、会社を成長させていく面白さを感じ、経営の経験を積むことができました。スタートアップ企業に育ててもらった過去があるからこそ、今度は自ら起業してこのエコシステムを盛り上げていきたいと考えたんです。

ーなぜ「ノンデスク産業」という領域に着目されたのでしょうか。

野呂:それまでに建設や製造業など、ブルーカラー系の産業に関連するスタートアップにかかわってきて、いろいろと考えることがありました。日々の食料や日用品から、医療、災害時の支援物資の供給に至るまで、物流は日本の最重要インフラであることは間違いありません。加えてオンラインショッピングの拡大により荷物の個数は増えているのに、ドライバーの人口は50代以降の方が半数を占めていて、今後のことを考えると、需要と供給が明らかに崩れていく未来が待っています。このような状況がブルーカラー産業全体で起こっていると感じました。もともと社会課題の解決に興味があったため、これは解決すべき日本の課題であり、今後はグローバルな課題になっていくのではないかと感じたのが興味を持ったきっかけです。

複数の事業展開でノンデスク産業の経営を本質的に支援

ー「クロスワーク」は短期間で会員100万人規模まで成長していますが、初期はどのようにユーザーを獲得していったのでしょうか。

野呂:まずは自分で会員登録のページを作り、デジタルマーケティングで対象となる方がノンデスク産業の求人を検索したときに、広告として我々の作成したページが表示される仕組みを作りました。会員登録をすることで、無料で求人を検索したり、転職の相談ができるサービスです。それまではノンデスク産業の方が転職する際はハローワークで探すことが主流でしたが、それを我々がデジタルにシフトしていったということになります。

厚生労働省が運営しているハローワークは、ユーザー体験や求人の質についても課題があると認識しています。対してクロスワークは、業界の知識を身につけたキャリアコンサルタントが転職活動をしている方に寄り添いながら転職支援をさせていただくので、ユーザー体験としてはより質の高いサービスになり、ここまで広まったのだと思います。

ーHRだけでなく、SaaSやM&Aまで事業を広げている背景には、どのような戦略があるのでしょうか。

野呂:我々のビジョンは、ノンデスク産業の事業者や従事者を支援することで、この産業自体を持続可能なものにしていくことです。現状の需要と供給の乖離を見ていくと、短期的に足りない労働力を埋めていくことも重要ですが、最終的に日本全体の労働力が減っていくのは明確なので、中長期で業務の省人化に取り組んでいます。

また、クライアントに対してさまざまなサービスを提供することで我々にしかできない価値を出すということも意識して、複数事業を行っています。

ーノンデスク産業向けプラットフォームとして、他社との差別化ポイントはどこにあると考えていますか。

野呂:我々はドライバーの調達からスタートして、現在は車両の調達や業務のクラウド化、業務効率化など、幅広い支援をしています。ノンデスク産業でこのように幅広い経営支援をしている企業は他になかなかないと自負しています。

ー「ロジポケ」「モビポケ」などSaaS事業では、現場のどのような課題解決を重視されていますか。

野呂:ロジポケは運送・物流業界に特化したクラウド型の業務効率化・経営支援システムです。車両管理、労務・勤怠管理から安全教育まで、運送業の課題をワンストップで解決します。例えば今、配車表は紙やエクセルなどで管理している企業が多いと思いますが、これをクラウド化して効率化しています。また、法律が変わり必要になった荷物の待ち時間の管理などにも対応しています。

モビポケはバス・タクシー・運送事業者向けのスマートフォンを活用した安全教育サービスです。隙間時間に実施でき、受講記録もクラウドで一元管理されます。ドライバーの教育の標準化が期待できます。

組織が拡大する中での「30名の壁」の乗り越え方

ー創業初期はどのようにチームを立ち上げていったのでしょうか。初期メンバー採用で意識したことを教えてください。

野呂:初期は事業の内容なども変わる可能性があるため、信頼できる方かどうかという要素が非常に重要だと思います。また、同時に事業を成長させる上で必要な能力を持っているかどうかも重視してきました。

私は24歳で起業しているので、同期はみんな社会人1年目2年目という状況でした。そんな中でも自分の周りで優秀な方100名ほどのリストを作り、ひたすら声をかけていったんです。もちろん何回も断られ続けましたが、結果としてより良い口説き方や、会社に合っている人材などがわかってきた気がしますね。最初の創業メンバーは、おそらく6~7回は声をかけていると思います(笑)。

ー急成長する中で、組織づくりやマネジメント面で苦労したことはありましたか。

野呂:よくいわれることですが「30名の壁」にぶつかりました。経営者と現場しかなかった初期の状態から人数が増えていき、管理職を通じて経営者の意思を伝えていかなければならなくなったタイミングで離職率が上がり、毎月3人ぐらい辞めて3人ぐらい入社してくるような期間が半年ほど続いたんです。社内の人間も成長している様子が感じられず「この会社大丈夫かな?」という空気になっているのを感じました。

そこで、当時マザーズに上場した企業の事業責任者をやっていた方に入っていただき、組織のマネジメントをしていただくと同時に、現場から優秀な若手を課長職に上げてマネジメントをまかせるという両軸で対策を行いました。

ー事業をスケールさせる中で、「これは転機だった」と感じる意思決定があれば教えてください。

野呂:物流業界から事業をスタートし、建設業界や製造業界など横に広げていったタイミング、また人材事業からソフトウェアの事業、経営支援の事業というように、事業面で他のカテゴリーを増やしていったタイミングの2つが当てはまると思います。

基本的に既存の業界や事業はナンバー2にまかせつつ、新規業界への参入や新規事業の開始は私が担当しました。新規事業に関しては今までとまったく違う試みだったので、社内で小さい企業をひとつ立ち上げるぐらいの気持ちで取り組む必要がありました。社内で別のカルチャーを作っていきつつ、企業というひとつの箱の中で統合させる必要があったので、バランスも見ながら工夫をしていました。

起業家が挑戦を続けていけば日本経済の未来は明るい

ーNXグループ(日本通運)との資本業務提携に至った背景と、その狙いについて教えてください。

野呂:物流DXという非常に大きな目標の下、業界トップクラスの会社と一緒に新しいプロジェクトを進め、物流業界のスタンダードにしたいという思いがありました。
業界を知り尽くした企業の知見を生かした商品開発をすることで、同じ業界の企業にも良いサービスが提供できる状態を目指しています。

ー人口減少が進む日本において、物流・建設などノンデスク産業は今後どのように変化していくと考えていますか。

野呂:別の業界からノンデスク産業にチャレンジされる方が増えてくるのではないかと考えています。アメリカで生まれた「ブルーカラービリオネア」というキーワードは、AIの台頭によりホワイトカラーの需要が低下する一方で、建設、電気工事、配管、物流など、AIには代替できないブルーカラーで専門スキルを磨き、高収入や莫大な富を築く人たちのことです。

我々が支援した事例ですと、事務職の方がタクシードライバーに転職されて年収が120万円上がった例もあります。AIの進化で今後事務職の求人が減っていくことを考えた時に、人手不足のノンデスク産業とのマッチングができれば、日本の労働力が再分配され、本当に人材が必要なところに人が移動し、需要と供給のバランスが取れていくのではないでしょうか。

ー今後、X Mileとしてどのようなポジションを目指していきますか。

野呂:これからも、ノンデスク産業に対して経営支援のベストパートナーでありたいなと思っています。人材採用をはじめ、困ったことがあればX Mileに聞けば何でも解決できるという信頼感やサービスの価値を今後も追求していきます。

ー最後に、これから起業を目指す方や、社会課題の大きい産業に挑戦したい方に向けてメッセージをお願いします。

野呂:この世の中にまだない新しい価値を作っていくという意味で、起業家は非常に重要な存在であると思っています。現在の日本では、100点満点に対してコツコツ努力を重ねて90点、99点を目指していくという教育感覚ですが、アメリカだと120点を目指す人がいたり、70点を取ってもチャレンジすることが大事と前向きにとらえる人がいたりと起業家精神が評価されています。

挑戦が評価されるアメリカでは最高のキャリアは起業家とされていますが、日本にそういった価値観が根付くのはまだこれからと感じています。我々起業家がそれぞれの新しい価値をしっかり作り、事業を伸ばすことで、日本全体が時代やテクノロジーに取り残されず、グローバルの中でも生き残り続けられる明るい未来があるのではないかと考えているので、そのためにも一緒に挑戦を重ねていきましょう。

とはいえ、事業は常に思い描いた通りに進むわけではないため、大変なこともあると思います。起業家がぶつかる課題は共通しているので、先輩経営者や同期など、仲間に相談すると誰かが答えを持っていることも多いです。ですから、起業家の仲間を作ることはとても重要です。頼ったり頼られたりしながら共に成長していきたいですね。